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[orca-users:00397] Re: 日医の後方支援策



 長島先生、こんにちは。
 安陪隆明@鳥取県鳥取市、安陪内科医院です。

> 「自由競争という名の幻想」
>
> 自由競争に任せておけば、結果として、適正な価格になり、質も向上するので
>しょうか。ユーザーの視点に立てば、例外が多いと思います。その最も良い例が、
>「既存のメーカー製レセコン」です。メーカー製レセコンは、何十年もの間、完
>全自由競争をずっと続けてきました。ユーザーは、多くのレセコンから、好きな
>ものを選ぶことが出来ました。その結果、ユーザーから見て満足の行く「価格」、
>「機能」、「サービス」が実現されているのでしょうか。もし、実現されていれ
>ば、日医がわざわざORCAを開発する必要はありませんね。

 この部分の認識で、私はまったく正反対の認識を持っています。
 主張すると長くなるので、昨年7月に書いた、
http://www.abe.or.jp/orca.htm
 より引用しますね。内容が一部古いのはご容赦くださいませ。
 レセコンの世界は「完全な自由競争」ではなく、アダム・スミス
が言うところの「神の見えざる手」が働いていない、というのが
私の主張です。

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「レセコンの本当の問題点は何か?」

 ここで現在のレセコンが抱えている問題点をあげてみると、
レセコンに対する不満の大きなものとして、

(1).現在の機種に不満なので、他メーカーの機種に乗り換えた
    くても、データの移行が困難である。
(2).一般の数十万円のパソコンとたいして変わらないように
    見えるのに、数百万円もして、割高感が強い

 という2点があげられるであろう。ちなみに(1)が原因になっ
て(2)が生じているとも言える。もし簡単にデータ移行できる
なら、より安くてより高性能でよりサポートの良い他機種に
各医療機関はどんどん変えられるわけで、そうなると必然的に
レセコンの値段は下がってくるはずである。すなわちアダム・
スミスが言うところの「神の見えざる手」が働くわけだが、
しかし実際にはレセコンはこの「神の見えざる手」が働かない
世界の商品となっている。その原因はまさしく「データの移行
困難」に起因するものである。各社レセコンとも独自のフォー
マットによりデータを管理している。そのため(1)及び、それに
起因する(2)の問題が起きてくるのである。

 それでは、各レセコン業者に「データの移行が容易になるよ
うにフォーマットを統一してください」と頼めば、それは解決
されるのであろうか? まず望み薄である。何故ならせっかく
「独自のデータフォーマット」という「囲い込み」の中に顧客
である医療機関が入ってくれているからこそ、医療機関は高額
のレセコン費用を払ってくれているのである。その「囲い込み」
をわざわざ取り払って顧客を逃すようなことを、レセコン業者
が自らするであろうか? そんなことをするレセコン業者は普通
存在しない。

 それでは我々はどうすればいいのであろうか? 各レセコン業
者の「囲い込み」の中で高額の費用を払いながらずっとそこに
いなければならないのであろうか? もちろん若干の苦労が伴う
が、他メーカーの機種に乗り換えることは可能である。しかし
そういう苦労をしても結局、ある「囲い込み」から別の「囲い
込み」へ移動するだけにすぎない。

「オープンソースビジネスモデル」

 このようなデータやアプリケーションソフトウェアによる
「囲い込み」は、別にレセコン分野に限らず、ソフトウェア
産業全般の中で一般的によく認められる現象である。最もよく
見られるのがWindowsというOSであり、ExcelやWordといった
ソフトについてである。私は「Microsoft依存症」と呼んでい
るが、これらのOSやソフトがなければ仕事そのものまででき
なくなってしまう企業は少なくない。依存症を起こしてしま
うと、もはやメーカーの言いなりにお金を払わざるを得なく
なってくる。

(ちなみにMicrosoft社の新しいOffice XPでは、絶対に一つの
ソフトが一台のパソコンにしかインストールできないコピー
防止策が設けられたため、複数のパソコンでOfficeを使って
いた企業は、これから莫大な費用を支払っていかないといけ
ないものと思われる)

 このような形態のソフトウェアビジネスは、今までコマー
シャルソフトウェアの世界では常識になっていた。しかしそ
の一方で、これとはまったく違うソフトウェアビジネスの形態、
いわゆる「オープンソースビジネス」と呼ばれるものが、今
どんどんと伸びてきている。

 例えば、サーバを置く企業や組織がどんどん増えてきてい
る中、オープンソースで無料であるLinuxというOSを使用する
企業や組織は少なくない。Linuxは信頼度が高いとはいえ、
あくまでオープンソースで無料であるから、それで問題が起
きたときは、採用した企業なり組織なりが自分で責任を持っ
て対処しなければならない。しかし、それでは大変だ、とい
うわけで、代わりに責任を持って運営するメンテナンス業者
が出てきたのである。これにより、コマーシャルソフトウェ
アを購入するよりもはるかに安い金額で、安心してLinuxを
サーバに使うことができるようになった。その一方でメンテ
ナンス業者の方は、ソフトウェアにお金を払う経費を浮かし、
自分達の持つ高い技術で直接利益を得られるようになった。
もちろん顧客がそのメンテナンス業者を気に入らなければ、
他のメンテナンス業者に切り替えることは比較的容易である。
オープンソースという中身の見える物を使っているので、
メンテナンス業者は交換可能な存在となり、メンテナンス業者
間で「より安く、より質の高いサービス」を目指す公正な競争
が生じることになる。すなわちアダム・スミスが言うところの
「神の見えざる手」が働く世界となっている。このようなオー
プンソースビジネスは、顧客にも、メンテナンス業者にも、ど
ちらにも高い経済的メリットがあるため、このような形態の
ビジネスが現在どんどん伸びているところである。

「仮称ORCAとオープンソースビジネスモデル」

 さて仮称ORCAの構成を見ると、それを構成するパーツがこと
ごとくオープンソースソフトウェアで揃えられていることに気
が付くであろう。データベースエンジンにはPostgreSQL、OSに
はLinux、暗号部分にはGNU PGPと、これらはすべてオープンソー
スソフトウェアである。そして開発されたレセコンソフトその
ものをオープンソースにすることが既に発表されている。厳密
に言うと現時点でパーツの中でCOBOLのみがオープンソースでは
ないのだが、これも本格運用時にはオープンソースのCOBOLに
切り替えられる予定であるという。そうなると仮称ORCAを構成
するすべてのパーツがオープンソースソフトウェアで取り揃え
られることになる。

(さらに細かいことを言うと、本稼動時に、日本語変換IMとして、
最も日本で人気のあるコマーシャルソフトウェアのATOKを採用
する予定もあるという。ただしこれは本質的な部分とは関係の
ない交換可能なパーツである)

 何故、このように仮称ORCAはすべてオープンソースソフトウェ
アで取り揃えられているのであろうか?

 その理由は、日医総研が、現在のレセコン業界のビジネス形態
をオープンソースビジネスモデルに切り換えようと画策したから
であり、それにより「独自のデータフォーマット」という
「囲い込み」から、レセコンを使う医療機関を開放することを
狙ったためである。このプロジェクトが成功した場合、オープン
ソースのレセコンソフトウェアを使うことによって、レセコンソ
フトそのものは無料となる。そして有料なのは、パソコンという
ハードウェアの料金と、メンテナンス業者に支払うメンテナンス
費用(また、その他ネットワーク費用やオープンソースのソフト
ウェアの媒体等の雑費)ということになる。メーカーが関与する
ことには変わりはないが、従来のレセコンビジネス形態と比較す
ると、そこに「公平公正なサービス競争」が生まれ、より良質で
より安いメンテナンス業者を選ぶ自由が生まれることになるのが、
大きな違いとなる。すなわちレセコンの業界構造自身を再構築す
ることになるのである。

 このことを理解すると「Windowsベースのレセコンソフトなら、
メーカーに頼らずとも自分で操作設定できるのに」という批判が
まったく的外れであることがわかる。Windowsベースであっても、
それで自分でレセコンをメンテナンスできる医師などほんの一握
りである。そうではなくて、仮称ORCAの目指しているものは、
レセコンを使っている全医療機関の「囲い込み」からの開放と、
コストダウンなのである。

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   安陪隆明
   鳥取県鳥取市
   安陪内科医院